2013年1月20日日曜日

in a haze of blue

青が霞む恋の記憶

正月明けに飛行機で読んだ木村綾子さんの文章。彼女が十九歳だったころの淡い恋の記憶がつづられている。「前田くん」と遠距離恋愛をしていた彼女は、夏を北海道帯広の牧場で住み込みのアルバイトをして過ごした。牧場での一日が終わると、彼女は毎日前田くんに手紙を書いた。

朝露をまとった八月の草花、牛を追いかけながら見上げた星空、まったくの他人と暮らす難しさ、彼らとともに立ち会った命の誕生、そして死。

初めてのものを目にするたびに、前田くんを強く思った。それをこぼさず伝えたかった。手紙の枚数は日ごとに増えていった。

しかし、彼から返事が来ることはなかった。二か月の牧場生活を終えると、彼女は真っ先に前田くんに会いに行ったが、彼はあっさりと別れを告げた。

それから十年以上たった今、彼女はサン・テグジュペリが生涯最後に恋した女性に贈り続けた手紙をまとめた本を読む。

届かぬ思いが募るほど、王子様の表情はそこはかとなく変化していく。つぶやきは…対象なき嫉妬を帯び、ある日を境に…架空の恋物語が始まる。手紙はもはや宛先不明のものとなっている。

私は、あの夏の日々につづった手紙、ところどころに青がかすむ記憶を思い出さずにはいられなかった。

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